山と人を繋げたい 環境にやさしい精油づくり|杉乃精 村山さんインタビュー
Phnom Toi(プノントイ)をもっと知るためのインタビュー企画が始まりました。第4回目の今回は、「北山スギ精油、京都クロモジ精油」の制作でご協力いただいている、杉乃精 村山さんの活動を紹介します。貴重な精油づくりの様子から、村山さんの職人としてのこだわり、そしてPhnom Toiが微力ながら、そこにどのような形で関わらせていただいているかを紹介します。
最終更新日 2023/8/21
インタビュー・執筆 アヤノ
村山寛(むらやま ひろし)
京都府京北地方で生まれ育つ。高校卒業後は林業に従事。22歳で東京の会社へ転職をし、営業として働く。退職後は地元の京北に戻り、老人ホームや森林公園で働く。2013年から杉乃精として事業を始め、自身の工房で精油を制作している。
60歳からの新たな挑戦
--村山さん本日はよろしくお願いいたします。
まずは、杉乃精さんの事業概要について教えてください。
私たちは、京都北山・京北という自然豊かな里山で精油を作っています。自然の恵みだけを使った100%純粋な精油は、化粧品やアロマセラピーなどで使われ人気があります。その評判は海外にも広まり、海外への発送も増えてきました。さらに、1年を通じて北山杉の香りを楽しむ工房見学ツアーを行っています。参加者には、精油採取体験のほか、森林浴や美味しい窯焼きピザなどを楽しんでいただきます。こちらのツアーも海外から来られる方がとても多いですよ。
--海外でも村山さんの作る精油が人気なのですね。京北で杉乃精を始められたきっかけとその時の想いを教えてください。
京北は千年を超える昔から、北山杉の産地として都に仕えてきました。かつて日本人にとって杉はとても馴染み深い木でしたが、現在は私たちの生活から姿を消しつつあります。山に捨てられていた枝葉などに新たな価値を見出し、山と人を繋げることで自然を守っていきたい。また、変わっていく京北の自然をもとのあるべき姿に戻したい。その想いから杉乃精を始めました。
--以前は、東京でサラリーマンをされていたそうですね。村山さんご自身の経歴と杉乃精創業に至るまでの経緯を教えてください。
大自然に囲まれた京北で生まれ育ち、高校卒業後は21歳まで森林組合で木こりの仕事をしていました。その後は東京の大手通信会社や防犯カメラ会社で営業職に就き、日々忙しく働いていました。55歳で退職してからも、色々な会社からお声がかかったのですが、1つに絞ることが出来ず地元に戻ることにしました。帰ってきてからは、老人ホームでの調理の仕事のほか、森林公園での管理の仕事に就き、バーベキューやピザ窯作りなど様々な企画をし、年間来場者を2000人から1万人に増やしました。しかし、儲けを作りすぎたという理由で解雇に…。
その後、「杉から採れるオイルを使って石鹸作りをしてみないか」という誘いをもらい挑戦してみることに。精油の作り方を学ぼうと岐阜県の林業研究所に見学に行ったところ、精油づくりは思ったよりも難しくないことが分かりました。
これが精油づくりの事業を始めたきっかけです。
--様々なキャリアを経て、精油事業を始められたのですね。今でもサラリーマン時代の経験が生きていると感じることはありますか?
営業の仕事をしているときは、とにかくお客様に直接会いに行き、必ず会話をしてサービスのご提案をするようにしていました。そこで得た、お客様の要望に応える力や人との繋がりによって今の事業も成り立っていると感じています。
環境にやさしいこだわりの詰まった精油
--杉乃精さんでは自然の恵みだけを使って100%純粋な精油を作られているとのことですが、より詳しく教えてください。
原料には京都・京北産の北山杉や黒文字(クロモジ)、京都・水尾産の柚子など、地域の自然素材を活用しています。杉から精油を取る際は、枝打ちした枝葉や間伐材を使うことで、環境にも配慮しています。蒸留には、工房横の地下水を汲み上げて使っています。精油の抽出後に残る、杉の枝葉は、土壌菌により腐葉土となり自然に還ります。燃料には間伐材や山地残材を使い、蒸留の冷却水には、川の清流を利用しています。このように、杉乃精は自然の恵みだけを使って精油を作っています。
--環境にも配慮された本当に100%自然由来の精油なのですね。
枝打ちされた杉の枝葉や、間伐されたクロモジの枝葉から精油を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
18歳の時に、現在の杉乃精の拠点となる木屋を自身で建てました。その時は精油の事業のことは考えていませんでしたが。
地元に戻ってきて60歳を過ぎてから、地元の山で捨てられてしまう北山杉の枝葉を見て、とても勿体ないと感じました。そこで、その枝葉を蒸留してみたところ、精油をとることが出来ました。
クロモジについては、他県でクロモジを蒸留している会社があることを知り、京都にあるクロモジの枝葉を蒸留してみるところから始まりました。現在販売しているクロモジ精油は、京都宮津市の世屋高原で、地元の高校のクラブ活動で行う森林整備の中で、雑木として間伐されてしまうクロモジの枝葉を活用しています。
--精油を作っているブランドは幾つかありますが、杉乃精さんならではの特徴は何ですか?
和精油をより多くの方に手に取っていただけるよう、なるべくコストを下げていることです。電気を使わず燃料を燃やして蒸留をするなどして、制作の段階でコストをできるだけ抑えられるよう努力をしています。
多くの苦労の中で貫いてきた信念
--現在は様々な原料から精油を作られていますが、精油が完成するまでに苦労したことがあれば教えてください。
和精油は材料確保がとても大変です。事業を始めた当時は、自分の足で山に行き原料となる枝葉を集めていました。特にクロモジは、自生している木なので、どこに在るのか探すのがとても大変でした。そして、苦労して集めた枝葉からとれる精油はごくわずか。最初はお金が回らず大変な思いをしました。実はこれまでに2回やめようと思ったことがあります。
今は一緒に働くスタッフが増え、枝葉などの仕入れ先も見つかったので、より効率よく生産が回るようになりました。
--多くの苦労の末に生まれた貴重な精油なのですね。これまで事業を運営してきた中で大変だった経験はありますか?
フランスから注文が入った時の話ですが、2週間という短い期間でヒノキ精油を10リットル用意して欲しいと頼まれました。1日かけて蒸留できるヒノキ精油の量は300~500mlです。毎日蒸留し続け、用意をしました。蒸留だけでなく、材料確保や資金繰り、到底一人でできる仕事量ではなかったため人員確保も必要となり、これらのすべての工程を2週間でやり遂げた時は本当に大変でしたね。私は断ることのできない性格なので、無理してでも要望に応えようと必死に用意をしました。結果的に、頼まれた分を予定通りの期日で発送でき喜んでいただけたので良かったです。
これからの精油づくりにかける想い
--杉乃精さまが、Phnom Toiの精油を生産することで得られるメリットはありますか?
新製品の開発に積極的に取り組むことができることです。要望にできるだけお答えできたらと思っています。
--杉乃精さまとしての今後の目標を教えてください。
身近な植物や、廃棄されているもの、自身で育てた植物からの精油を採ってみたいです。 現在弊社と同様のシステムで蒸留している工房が、全国に12箇所あります。 これを、20〜30箇所と増やしていき、より多くの場所で様々な種類の精油を作りたいです。
また、より多くの人に自然の魅力を伝えられる施設を山の中に作りたいです。山と人を繋ぎたいという想いを形にしてみたいですね。
--山の中にある施設、想像するだけでワクワクしてきます。村山さんの今後の目標達成にPhnom Toiとしてお力添えできるとしたら、どんなことですか?
生産者さんを見つけるお手伝いをしてもらえたら嬉しいです。「こういう精油が欲しい」という要望はどんどん私に頼んでください。私自身も、様々な植物から精油を作ることは楽しいですし、それがPhnom Toiの新商品になるのならお互いにプラスですよね。
編集後記
京都市内から車を約1時間走らせると、人通りの激しい市内からは想像できないほど静かでのどかな京北の自然が広がっています。
屋外での作業になるため、暑さとの戦いとなる夏は涼しい朝の6時ごろから蒸留を開始するそうです。厳しい環境の中でも、電気に頼らず木材を燃やして火をおこし、丁寧に人の手で蒸留すること。そこに、村山さんの環境に配慮した精油づくりへの強い想いが見えました。
今回のインタビューでは、村山さんの人柄に触れる内容も多くありました。取材の日も、村山さんの携帯電話は精油の委託やツアーの予約の電話でひっきりなしに鳴っていました。良質な精油に加え、村山さんの素敵な人柄も杉乃精の人気の秘訣なのではないでしょうか。
この記事で、精油づくりについて興味の持った方、工房見学ツアーに参加してみたいという方は、ぜひ杉乃精さんのHPをご覧ください!
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インタビュー企画
Vol.1 里山とまちを繋ぎたい。めぐる自然の中でわたしの役割を見つめ続けた10年間。|Phnom Toi 誕生ヒストリー
Vol.2 好きを仕事に。あなたに寄り添うお花のスペシャリスト|フラワーデザイナー Yokoさんインタビュー
Vol.3 職人が生み出す 地球にやさしいモノづくり|木工職人 竹田さんインタビュー